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2011年4月 7日 (木)

「想定外」を言い訳にしない努力を

M9.0という「想定外」の大地震が2011年3月11日に東北関東沖で発生し、死者・行方不明者約3万人(2010年3月末現在)という未曾有の被害が生じた。地震による津波が被害を拡大し、特に福島原発では津波による浸水で燃料の冷却機能が正常に作動せず、水素ガス爆発、放射性物質の拡散など地震後の二次被害も発生し、「決死隊」による必死の冷却作業も行われている。筆者の専門は機械安全であり原子力安全ではないが、この大きな教訓から機械安全技術者が学ぶべき事を考えてみたい。

 [地震津波被害と共通原因故障]

 機械安全では安全装置を多重化する場合、共通原因故障の有無に注目する。共通原因故障の典型的な例は温度上昇による電気電子回路の異常動作である。共通原因故障が生じる場合は、いくら多重化していたとしても単一故障として安全設計を行う(安全性を低く評価する)ことが制御安全規格ISO13849-1:1999に示されており、同規格の2007年版では共通原因故障の割合が制御系の安全性指標Performance Levelに明示的に取り入れられている。共通原因故障への対応では、単純な多重化でなく、異なる技術(電気と空気圧等)を用いて多重化する異種冗長性(ダイバーシティ)の利用が推奨される。

 原発安全は「止める、冷やす、閉じ込める」を多重化して守っているが、福島原発ではその多くを電気に頼っている。大地震が起これば津波が発生する事は自明であり、電気にのみ安全を頼るなら、電源系の津波対策は「複数の電源が有るから多重系」と単純に考えるのでなく「複数の電源があるが、津波被害という共通原因故障を十分考慮した上で、多重系」と考えるべきであろう。異種冗長系の考えを取り入れるならば、重力による注水、蒸気圧による注水等も考えられる。

[事故発生後の対応の設計者責任]

 機械安全では、事故が発生した場合に作業者を機械から救出するための手段(例:装置の逆転、手動での動作等)を、機械の設計段階から考慮すべきとされている(機械の安全設計原則ISO 12100-2:20035.5.3 捕そく(捉)された人の脱出及び救助のための方策」参照)。すなわち、事故の発生後の対策を考える事は、機械の設計者責任の一部となっている。

 福島原発では事故発生後、炉心の詳細な情報を確認するためだけに原子炉に近い中央制御室に被爆覚悟で作業員が出入りしているという(遠隔モニタリングは難しいのだろうか?)。また、原子炉冷却のための放水が、ヘリコプター、機動隊の放水車、消防の放水車、建築機械(高所コンクリート圧送車)と次々と変わっている(事前に最適なものを検討していなかったのだろうか?)。また放水のための取水作業で、当初消防は消防車のみ利用して海からホースを伸ばす予定であったが、予定以上にガレキが多く、放射能環境下での人力でのホース延長作業が併用となった(事前にガレキ作業状の把握はできなかったのだろうか?)。これらの東京電力の対応を見ていると、事故の発生を前提にした事故発生後の対策を事前に十分行っていたのか、疑念を生ずる。

: IAEAの2009年度年報のsafety and security 章の最初の項目は、事故への準備と対応であることも、注目しておくべきであろう。

 紙面の都合で限られた視点であるが、福島原発からの教訓を考えてみた。絶対安全という神話のもとに普及が計られた原発では、事故を想定する事自体が悪とするような風潮が有ると感じている。筆者の専門とする災害対応ロボット技術の原子力災害への応用を昔、原子力関係者に打診したところ「原子力は絶対安全だから、災害対応ロボットの開発は不要」と言われた経験がある。一方、原子力大国のフランスでは、独自に原子力災害対応ロボットを開発しており、福島原発事故対応への貸し出しも申し出ている。

 「想定外」だから対応しないのではなく、すこしでも想定外を想定する努力を安全技術者は続けるべきではないか。この努力はコスト削減の強い圧力に会うが、安全技術者としてどの程度まで想定すべきか、主体的な判断が求められる。なぜなら安全技術者の努力により、「想定外」の状況での「決死隊」を少しでも減らせるはずだからである。

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